クリニックの分院展開の傾向と成功のポイントとは?
人口減少と医療費増加という課題に直面する医療業界にあって分院展開は事業規模の拡大策の1つとして関心が高まっています。
解説:日本経営ウィル税理士法人
菅原 剛
なぜ分院展開が増えている?
複数の診療所を開設する、分院展開のご相談が増えています。
人口減少と医療費増加という課題に直面する医療業界にあって、診療所の経営者にとって、分院展開は事業規模の拡大策の1つとして関心が高まっています。
なぜ、分院展開を行う診療所が増えているのでしょうか。
理由の1つは経営のリスクヘッジです。ご存知のように、診療所の診療圏争いは激しくなっています。
これは特に人口が密集する都市部では顕著となり、診療所数が飽和状態になりつつあります。
そこで、現在の診療圏とは別の場所に分院を展開することで、新たな患者さんを獲得しようという狙いです。
また、昨年からのコロナ禍により、経営に大きなダメージを受けた診療所も少なくありません。
そのような有事に備えるためのリスクヘッジとしての分院展開は1つの選択肢であると考えられます。
分院展開が増えてきた理由は他にもあります。比較的若いドクターを中心に、「経営」そのものに対する関心が一昔前より高くなってきています。
つまり、「医師」から「経営者」へ軸足を移し、人材育成や組織活性化、自院のブランディング戦略など、「経営に関するマネジメントにもチャレンジしたい、手腕を振るってみたい」と思うドクターからも分院展開に関するご相談が多くなってきています。
分院展開のパターン
【多店舗展開型】
分院展開には大きく3つのパターンがあります。ご自身の目的にはどのパターンが最適なのか、まずはイメージを固めることが大切です。 多店舗展開型
基本的に本院と同じタイプの診療所を展開するものです。本院で成功した医療サービス、コンセプトを踏襲して、需要が見込めそうな他の地域に、分院を展開。美容皮膚科クリニックなどに多く見られるパターンで、飲食業におけるチェーン展開のようなイメージです。
【垂直展開型】
本院で行っている医療サービスの上流または下流を担う分院を展開。例えば、本院への集患を目的としたサテライトクリニックの開設がそれに当てはまります。眼科クリニックが通常の外来診療は分院で行い、手術が必要な患者さんを本院に紹介するパターンなどがあります。
【水平展開型】
本院と関連する領域を担う分院を展開。産婦人科の本院が赤ちゃんをケアする小児科の分院を開設したり、整形外科の本院が高齢者の患者さんの全身管理や訪問診療を行う分院を開設するパターンなどがあります。
分院展開における検討課題とは?
分院の展開を考えるにあたっては、大きく以下の3つの課題を検討していくことになります。
- 資金確保
どのようなパターンの分院を展開するとしても、本院の開業時と同じように数千万円単位の資金がかかります。
設備の購入費、当面の運転資金、分院長も含め新しく雇うスタッフに払う給与などです。
できれば、金融機関からの融資を受けずに開業したいところですが、本院を開業してからまだ数年しか経っていない場合は、新規開業時に借り入れた資金の返済はようやく目処が経った段階のはずです。
借入金なしの開業は、現実的に難しいと思います。
また、資金的リスクは初期投資に限ったことではありません。
分院の収益が思ったように伸びなければ、業績が好調な本院の経営にも影響を及ぼすことにもなりかねません。
「分院展開の準備に院長ならびにスタッフが注力してしまい、一時的に本院の売上が減少してしまった」という話もよく聞きます。 - 組織化の検討
分院の規模にもよりますが、本院と同じ規模の診療所であれば、単純にスタッフ数は2倍になり、全体のオペレーション量も2倍になります。
つまり、院長がマネジメントする対象も2倍になります。このマネジメントを分院長に任せられることが望ましいですが、分院長も初めて管理者となるケースがほとんどで、中には「マネジメントは苦手だから本院長にお願いしたい」という方もいます。
スタッフの数にもよりますが、分院が本院から近ければできないこともないでしょう。
しかし、分院が本院から遠く離れている場合、物理的に難しいのは明白です。少なくとも、事業所が2つになることで、どのようにその2つの組織を一体的に運営していくのか、どこから先をそれぞれの地域の特性やスタッフの自主性に任せていくかを、慎重に考える必要があります。 - 分院長に対するマネジメント
「分院を開業したけれど、思ったように患者さんが来てくれなかった」
「本院長もいろいろと策を講じて対処したけれど、それでもダメだった」
分院長のタイプにもよりますが、このような状況が長く続くと、分院長は居心地が悪くなり、最悪のケースでは退職することもあり得ます。
分院長にとっては、職場を変えるだけの感覚かもしれませんが、本院としてはそうはいきません。
すでに多額の投資をしているわけですから、新たな分院長を見つけ出し、1日も早く分院の運営を軌道に乗せる必要があります。
分院長の退職は、業績が悪い場合にだけ起きるわけではありません。
逆に、業績が好調である場合でも起きる可能性があります。「自分は診療所経営の才能がある。
本院長や法人に頼らずに1人でもできるはずだ」といった考えが分院長に芽生えてくる場合もあるからです。
分院運営を軌道に乗せるポイントは?
では、分院運営を成功させるためのポイントは何でしょうか?
分院運営が成功するか否かは、分院長の能力や適性に大きく左右されることは言うまでもありません。
しかし、その能力や適性を最大限まで高めてパフォーマンスを発揮してもらうには、理事長の感覚や経験だけに依存しない制度や仕組みの構築が重要となります。
私たちは、その答えは「分院長のモチベーションを上げる評価制度」と「その評価の根拠となる施設別損益計算制度」の導入にあると考えています。
分院運営は、成功すれば医療法人にとって大変有益になる反面、前述のような様々なリスクが伴います。
専門家と共に具体的な施策を検討されたい方は、お気軽にお問合せください。
解説:医療事業部 菅原 剛
本稿はご回答時点における一般的な内容を分かりやすく解説したものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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